ICカードを自動改札に押しつけ、家路に着くために急ぎ足でホームに向かう。
きちんと右側通行を守る人の群れに混ざって歩いていると、反対方向から突っ込んで来た小さい人とぶつかった。
子供かと思ったら、背の低いおじさん。
すれ違いざまに、
「おぼえとけよ」
と、まん丸い目でにらまれた。
自分から突っ込んできたくせに……。
と、少しムッとしたが、今どき「おぼえとけ」なんて子供でも言わない。
振り返ると、おじさんはあちこちで人とぶつかり、そのたびに「おぼえとけよ」と怒鳴っている。
笑いながら階段を降りようと足を一歩踏み出したら、
そこに、階段はなかった。
真っ逆さまにどこかに落ちて行きながら、おじさんの声を聞く。
―― おぼえてた?