「隣に誰か引っ越してきた気配があるのに、ウチに全然あいさつがない。最近の若い人はなってないわ。」
と、向かいの奥さんに愚痴を言ったのは、つい昨日の事である。
買い物から帰ってきたら、小さいおじさんがチョコンと茶の間に座っていた。
「こんにちは。はじめまして。」
「だ……だれです?」
「最近、この近所に来た者です。」
「はあ? 黙って入ってくるなんて泥棒と同じじゃないですか。警察を呼びますよ! 」
「だって。怒ってたって向かいの奥さんから聞いていたから。そんなに来てほしかったのかと思って。ここには来ないつもりだったけれど、来てやった。他の家はもう回ってきたんだよ。」
「申し遅れましたが。死神です。」
にんまりと笑うおじさんの背中越しの窓に、この町一帯を焼き尽くす火の手が上がるのを見た。