近頃は頭がぼんやりとしていて、時々子どもの頃の記憶を掛け違えたりする。
姉に取られたと思っていた人形は私が捨てたものだった。
姉にされたと思っていた意地悪は私が姉にしたことだった。
そんな間違いを見つけた時、姉は私を諭すように哀れむように優しい声でささやく。
「冬子、よぉく考えてごらん。」
過去の記憶が真実とすり替わっていく時、私の人生って一体何だったんだろうと思うのだ。私なんて人間は本当にこの世に存在したのだろうか。
「冬子、よぉく考えてごらん。」
「覚えているでしょう。」
でも、お姉ちゃん。
本当に私の記憶は間違っているのだろうか。
姉が指差す先に、幼いころから庭を屋根のように覆っている桃の木の枝がある。
枝に揺れる、首を掛けた女がぶら下がるロープ。
あれは、私なのか。姉なのか。