長い上り坂の中腹に建つ我が家と道路向かいの家は、ほぼ同じ高さにある。お互いの家の中がすっかり覗けてしまう位置だ。
父は神経質な人で、すき間なくガッチリとレースのカーテンを閉めていた。
そして、家の中を覗かせっぱなしにして憚らない向かいの家を窓から苦々しげによく見つめていた。
向かいの家がカーテンをしっかり閉めるようになったのは、父が亡くなってからである。
昼間でも。レースではなく、暗幕のように黒い分厚いカーテンを。
ある日、珍しくカーテンに隙間があり、子どもが外を覗いているのが見えた。
子どもは大きく目を見開いて窓の外を指さし、何か叫ぼうとした。
母親らしき人が慌ててカーテンをザッッと閉める。
何かから子どもを匿うように。
指さしていたのは、我が家の仏間の方向だった。
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