学生時代、書籍会社の倉庫でアルバイトをしていた。
倉庫は本のジャンル別に棚が並んでいて、作業者は棚と棚の狭い通路をカートを押しながら歩く。
注文指定の本を見つけたらハンディコンピューターに入力してカートに乗せる。指定の用紙に書いてある本を全て集めたら発送レーンに流す。
この繰り返し。
ロボットのような作業に疲れて辞めていく仲間も多かったが、突然休んでも責任が無く、就職活動が長引いて遅刻しても特に怒られる事も無く、時間の融通が利く事は大きなメリットだった。
それに、私は気づいたのである。
同じ通路をグルグル回っている内に、時々、今まで全く通った事のない不思議な通路に出くわす事に。
普通の通路は白色電気の無機質な明るさに照らされているだけだが、その通路は通路その物が輝くように浮いているのだった。
そこを歩いている従業員は、満ち足りた微笑みを浮かべながらカートを押していた。
私も、幸せな気持ちになれた。
いつも、ふと気づくとその通路から抜け出していて、何の本がある場所なのかも解らなかったのだけど。
探しても出会えないその通路を求めて、時々、意味もなくフラフラと用の無い方向へ歩いて行た私は、ある日、上司から呼び出された。
「最近、余計な動作が多くて作業成績が落ちているよ。」
「すみません。」
「顔色も悪いけれども、体調は大丈夫?」
「あの通路が見えたら、要注意だよ。」